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「CLS銀行」とは何か、その具体的な決済のしくみ ー 外国為替のしくみ(4)

「CLS銀行」ができた理由と、その具体的な決済方法などについて説明します。

 

「外国為替取引」における時差

外国為替取引は、基本的にはそれぞれの国のシステムによっておこなわれる(例えば、日本でいえば全銀システムと日銀ネット、アメリカでいえばCHIPSなどでおこなわれる)ので、2つの国に時差があれば、取引の開始から完了までに時差が生まれます。

 

ヘルシュタット・リスクとは

1974年のある日、当時の西ドイツにあったヘルシュタット銀行が、多くの銀行と、ドイツマルクを買ってドルを売る取引の契約をしました。ヘルシュタット銀行はその日の午前中にはドイツマルクの支払いを受けていましたが、その日の取引終了後に経営破綻してしまいました。本来であれば、ニューヨーク市場がひらいたあとヘルシュタット銀行からドルの支払いを受けるはずだった銀行は、それができなくなってしまいました。

このできごとによって、「外国為替取引おける時差によるリスク」「ヘルシュタット・リスク」と呼ぶようになった、ということのようです。

 

CLS銀行とは

こういったできごとを受けてCLS銀行が作られました。CLS銀行は、世界の主要な民間銀行が出資してアメリカのニューヨークに作った、ちょっと特殊な銀行です。銀行といっても、お金を預けておくことはできません。また、貸してもくれません。

この銀行は「外国為替取引を同時決済するしくみ」としてだけ、作られました。

CLS銀行で取扱われる通貨は、現在18種類あります(円もこの中に含まれます)。CLS取扱い通貨を発行している国の中央銀行には、CLS銀行の当座預金の口座があります。

民間の銀行がこのしくみを利用する場合、決済メンバーになってニューヨークにあるCLS銀行に口座を持ちます(決済メンバーの口座を使わせてもらい取引をする、サードパーティーになる、という方法もあります。実際には、中小の金融機関や、商社、保険会社など、多くの会社がサードパーティーとしてCLS決済を利用しているようです)。この口座は、18種類のそれぞれの通貨について作られます(1つの銀行が18種類の通貨の口座を持ちます)

 

CLS銀行による外国為替取引の同時決済のしくみ

このしくみでは、全ての参加国(CLS取扱通貨の発行国)の国内決済システムが同時に稼働している時間帯に、取引の決済を行います。国によっては参加にあたって国内決済システムの稼働時間を延長するなどして、各国が同時に決済できるようにしています。

「支払指図(CLS銀行に対する支払の依頼のデータ)」の送信*1は、日本時間の午前8:00が締め切りで、実際の取引は、日本時間の午後3:00から5:00の2時間のあいだに行われます。(この2時間のあいだは、18の通貨を発行している各国のシステムが稼働しています)

例えば、日本のA銀行がアメリカのB銀行から1ドルを100円で買う(1ドルと100円を交換する)場合を見てみます。(ともにお互いの国の中央銀行に当座預金の口座を持っているとします)

午後3:00以降に、A銀行は日銀当座預金の口座間で、CLS銀行に100円を送金します。

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すると、ニューヨークにあるCLS銀行はA銀行名義の口座に100円を入金します

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日本国内の取引の場合、まず民間の銀行の口座に振り込まれて(建て替えられて)、そのあとで中央銀行当座預金の口座間で送金して決済するか、即時グロス決済であればそれがほぼ同時におこなわれるのですが、ここでは不払いがおきるリスクを避けることが目的なので、中央銀行当座預金に入金されたあとに、A銀行の口座に入金することになります。

同じように、日本時間の午後3:00以降、アメリカのB銀行は連邦準備銀行*2の当座預金の口座から、同じく連邦準備銀行にあるCLS銀行の口座に1ドルを送金します。

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すると、ニューヨークにあるCLS銀行はB銀行名義の口座に1ドル入金します。

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そして、両行の円とドルが同時に交換されます。

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このあと、B銀行が手に入れた円は、日銀当座預金の口座間でCLS銀行からB銀行に送金され、A銀行が手に入れたドルは、連邦準備銀行の中央銀行当座預金の口座間で、CLS銀行からA銀行に送金されます。これが、日本時間の午後5:00までに完了します。

実際には、いちどきにたくさんの取引が行われるので、中央銀行当座預金の口座間でCLS銀行に送金するときにはネットで(複数の取引のお金をまとめて)おこない、CLS銀行からお金を受け取るときもネットでおこなわれます。しかし、CLS銀行内でのお金の交換(同時決済)は、1件1件の取引ごとにおこなわれます。

午後3:00の取引開始時点での各国中央銀行のCLS銀行口座の残高、そしてニューヨークにあるCLS銀行内の民間銀行名義の口座の残高は「0」で、午後5:00の取引終了時点でのそれぞれの口座の残高も「0」です。つまり、CLS銀行はお金を同時に交換をするためだけのしくみなので、取引以外の時間には、ここにはまったくお金が入っていません。

現在では、外国為替取引の半分以上がCLS銀行を使った取引になっているようです。この取引では、日中に売買契約が成立して、すぐに支払いの依頼のデータを端末から送信したとしても、取引が完了するのは翌日の午後5:00ごろです。


間違いがあれば、指摘していただけると嬉しいです。


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記事一覧

*1:SWIFT(スイフト)と呼ばれるシステムによっておこなわれます

*2:実際には、外国の銀行が口座をひらいているのはニューヨーク連邦準備銀行です。図では「アメリカ」「ニューヨーク」と分けて書いてありますが、場所としてはどちらもアメリカのニューヨークです。