根っこが知りたい

経済などの「なぜ」「どうして」を突きつめて考えるブログです。

「実質賃金が上がること」と「失われた20年」の関係

「実質賃金」という言葉はニュースなどでも頻繁に見かけます。最近だと「アベノミクスの評価」といったところで、国会で取り上げられたりしていました。ここでは、短期的な評価はちょっと置いておいて、戦後から(というと大げさですが)現在まで、長期的にどう推移してきて、それが「景気が良かった時代」「失われた20年といわれる不況の時代」にどう影響してきたかを考えてみました。


「実質賃金が上がる」とはどういうことか

「実質賃金が上がる」ということは「物価に対して賃金が上がる」ということです。

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そして「物価に対して賃金が上がる」ということは「買える商品の数が増える」(あるいは、それまで買えなかった商品が買えるようになる)ということです。

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豊かになっていく感じで、とてもいいことのように思えます。

ではどういう場合に実質賃金が上がるのかというと、いくつかの場合*1が考えられるのですが、基本的には「一人あたりの生産量が増える」ときに実質賃金は上がります。

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「一人あたりの生産量」が “大きく経済成長していた時代”、そのあとの“長期の不況と言われる時代” をとおしてどのように推移したきたかは「一人あたりの実質GDP」の推移を見ると分かります。(なぜ分かるかはこちらを見ていただくと…)

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ただ、これを実質賃金の推移と比較すると、

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実質賃金に影響を与える条件はほかにもあるので、まったく同じ推移にはなりません。

とはいえ実質賃金の推移を見ると、「失われた20年」などと言われる長期の不況に入る前と、それ以降の流れに、同調しているように見えないでしょうか? つまり、これが長期にわたる不況の理由のように思えないでしょうか?

実質賃金の推移が経済の状況にどう影響したか

もう少し具体的に、実質賃金の推移が日本の長期的な経済の状況にどのように影響したのかを考えてみます。

まず、実質賃金(物価に対する賃金)が大きく上昇していた時代(バブル崩壊のころまで)、それが「格差の拡大」にどう影響していたのかを考えてみます。

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実質賃金は平均値です。格差の上限にいる人たちの実質賃金はさらに上がってどんどんお金持ちになります。しかし、格差の下限にいる人たちも(この時代は物価も上昇していましたが)、実質賃金が下がる人は割と少なかったのではないでしょうか? つまり、生活できていたのではないかと思うのです。

しかし、実質賃金が上がらない時代(失われた20年などといわれる長期の不況の時代)になります。この時代は物価も上がらなくなりましたが…。

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実質賃金が下がれば、平均的に買える商品の数が減っていきますが、格差の下限にいる人たちはさらにそれが減っていくことになります。現在では、食べるのも、住むのも、着るのも、薬を買うのも、子供を塾に通わせるのも、「商品を買うこと」です。

実質賃金が大きく上がっていた時代と、上がらなくなった現在を比べても、社会保障のしくみはそれほど大きく変わっていません。時間とともに、生活保護を受ける人や、ワーキングプアと呼ばれる人たちが増えているとしても、不思議ではないのではないでしょうか?

ふたたび実質賃金を上げることはできるか

(おそらく戦後から)90年代半ばごろまで、とても長い時間にわたって実質賃金が上がり続けていたのは(そのいちばんの理由は)「一人あたりの生産量が増え続けていたから」だと思います。そしてそれは「一人あたりの消費量が増え続けること」によっておきていたのだと思います。

しかし「一人あたりの消費量」には限界 があります。


実質賃金を上げることはできると思います。しかし、かってのような状態にもどすことはできないのではないでしょうか? 現在の問題を解消するには、やはりあたらしいやり方が必要な気がします。

 

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*1:労働分配率が上がる、交易条件が改善するなど